年森瑛さんが集英社文芸ステーションで紹介してくれました

集英社文芸ステーション「ネガティブ読書案内」第42回:言わなくていいことを言ってしまった時

 年森瑛さんは「妖怪みたい」と書いていた。わたしのことが書いてあるのかと思った。ただ毎日、生きているだけでなんだか色々まずいことが起きる。見た目では特に何もないから、妖怪は身体の中に居るのだと思う。だから正体が分からなくて、周りが困る。人間に話しかけているつもりなのに、わたしは「にゃあ」と変な声で答えてしまう。化け猫だったらまだいい。

 そういえば、わたしはいつも人間の真似をして生きてきた。人と会ったら、挨拶をするとか、髪をとかしてから外に出るとか、ありがとうと言うとか。

 わたしは気持ちがわからないだけではなくて、人間がそこにいることに長いこと気がついてなかった。気づいた後でも、常にわたしの頭の中は散らかっていて、正しいことが口から出ないし、行動もおかしいと言われる。

 家の中で家族といるときはまだマシだ。家の中はわたしに合わせて環境が調整してあるから頭の中が静かだ。落ち着いていれば、わたしも相手に通じるように動くし、家族はわたしの気持ちを拾ってくれる。わたしは家では人間である。外に出るのは嫌だなぁとも思う。

 家族ではない誰かがいると、散らかりが増して妖怪っぽさが出る。逆に言うと、妖怪としてしか誰かと話ができない。誰もいない場所では、誰かと話せないから。喋っている間じゅう、わたしは次の言葉を考えている。妖怪であることがバレてしまわないように、慎重に行動しなければならない。

 今、必死になって考査の勉強をしているのだけど、問題を読み取るのが難しいので、いくら勉強してもうまくいかない。妖怪学校とかあったら、尻尾を隠して生きていかなくてもいいのになと考える。


 年森瑛さんは、子どもの頃よりは妖怪パワーも抑えられているだろうかと書いていた。

 わたしは最近成長したくないと感じている。大人にふさわしい中身がないのに、大人になるのは怖い。しかしどうやっても人は成長してしまうのだと考えている。妖怪パワーはきっと減ってしまっている。妖怪の人の書く本はどんなだろう。


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